家庭菜園で野菜を栽培する場合、誰でも実践してみたくなるのが、農薬をまったく使用しない無農薬栽培です。野菜作りの本を見ても「無農薬でつくる」というタイトルの本が沢山売られています。
野菜作りを続けていると、無農薬で野菜を育てるには、それなりのテクニックが必要だということを痛感させられます。
野菜を大きく育てるために投入する肥料や品種改良されている交雑種(F1)の野菜が無農薬栽培に向かないことなどが要因に考えられます。
そこで、害虫や病気を出さないテクニックを身に着けながら、比較的安全な農薬をいくつか使用して、有機栽培的な栽培をするのがもっとも家庭菜園に向いていると思います。
農薬を選ぶ基準としては色々選択肢があります。
劇物・毒物などの人畜毒性、環境ホルモンの有無、発がん性物質の有無、魚毒性、ADI、PRTRなど、農薬の安全性を判断するには沢山の情報があります。
これを、家庭菜園レベルで総合的に判断するのはとても難しいです。
そこで、一つの目安が有機栽培で使用できる農薬であるかどうかで決める方法はいかがでしょうか?
有機栽培で使用できる農薬は、生物農薬や天然由来物質で出来ている比較的安全なものが多く、有機肥料で育ててかつ病害虫が発生した時にこれらの農薬で対応すれば有機栽培の農産物と同じレベルの野菜を栽培することが可能となります。
ただし、有機農産物に使用できる農薬には、魚毒性の高いものや環境に負荷を与えるものもあるので、注意が必要です。
おすすめ1 BT剤(クルスターキー系もしくはアイザワイ系)
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
BT剤 (クルスターキー系) |
有効成分はバチリス・チューリンゲンシス菌の産生する結晶毒素(クルスターキー株)。チョウ目害虫の幼虫に対し、選択的に作用し安定した効果を発揮します。 BT剤(クルスターキー系)については「BT剤まとめ」参照 |
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BT剤 (アイザワイ系) |
有効成分はバチルス・チューリンゲンシス菌の生芽胞および産生結晶毒素(アイザワイ株)。アイザワイ系統菌が持つ結晶性タンパク毒素により、従来のBT剤など他剤抵抗性の発達したコナガに対しても安定した高い効果を発揮します。 BT剤(アイザワイ系)については「BT剤まとめ」参照 |
BT剤は主にアオムシやヨトウムシなどの鱗翅目対策に使います。BT剤がないとキャベツやハクサイがまともに作れないとも思えるほど。クルスターキー系とアイザワイ系では、効果のある鱗翅目が若干違ってきます。なので、クルスターキー系をアイザワイ系を2種類持っておくとベスト。
BT剤は雨が降ると流れてしまうので、晴れが続く日に散布しないと効果がありません。使用回数に制限はないので、こまめに散布する必要があります。
おすすめ2 還元澱粉糖化物(エコピタや粘着くん水和剤など)⇒アブラムシ
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
天然由来物質 (還元澱粉糖化物) |
エコピタ |
食品(還元澱粉糖化物)が有効成分です。薬剤抵抗性が発現しやすいアブラムシ類・ハダニ類・コナジラミ類に効果を発揮します。また、うどんこ病に対しても効果を発揮します。物理的に作用(薬剤が害虫の気門を塞ぐことによって効果を発現)する剤であるため、薬剤抵抗性を発達させる恐れがほとんどないと考えられます。 | ||
有効成分に使用されているデンプンは「ばれいしょ」と「キャッサバ」由来のもので、主にスープなどインスタント食品に広く使用されています。そのため、人畜・環境に対する安全性は非常に高い製剤です。ハダニ類(ミカンハダニ、ナミハダニ、カンザワハダニ)、アブラムシ類、コナジラミ類の成虫に殺虫効果を示します。 |
「エコピタ」や「粘着くん水和剤」といった澱粉から出来た農薬は主にアブラムシ対策で使います。その他にハダニ対策にも使用できます。特にアブラムシは家庭菜園で発生しやすい害虫なので、是非一つ持っておきたい農薬です。
BT剤同様使用回数の制限はありません。効き目はマイルドで、残効性がないので、アブラムシが居なくなるまで、小まめに散布する必要があります。
おすすめ3 燐酸第二鉄(スラゴやナメトール)⇒ナメクジ、カタツムリ
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
天然由来物質 (燐酸第二鉄) |
ナメクジ・カタツムリ類に対して特異的に食毒効果を発揮します。ナメクジ・カタツムリの被害がある全ての農作物に使用可能です。新開発のパスタ製法で製剤されており、水分の吸収、乾燥を繰り返しても効果、形状にほとんど変化はなく、高い耐雨性があります。 | |||
ナメトールは、顆粒状のナメクジ・カタツムリ(マイマイ)駆除剤です。新しい製剤技術で、ナメクジやチャコウラナメクジ、カタツムリ類に優れた誘引力と殺虫力があります。 |
アオムシ系、アブラムシと来たら次はナメクジ対策。ちょっと対策を怠りがちになりますが、ハクサイやレタスなどに寄り付くナメクジは結構な害虫です。マルチ栽培の多用でもナメクジの被害が増えます。
そんな時には迷わず「スラゴ」などの安全な薬剤で防除しましょう。天然由来物で安全なうえ、雨が降っても薬剤の効果が持続します。定植時にパラパラとまいておくだけでかなりの効果があります。
BT剤、粘着くんの次に持っておきたい殺虫剤の一つです。
おすすめ4 無機銅剤(Zボルドーなど)⇒べと病、軟腐病などの予防
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
無機銅 |
Zボルドー |
無機銅剤(塩基性硫酸銅)であり、糸状菌病害から細菌性病害まで幅広い病害に有効である。また、野菜類登録を有しているなど多くの作物へ適用を有する。耐性菌出現リスクが低く、既存剤に対する耐性菌に対しても有効である。 | ||
コサイド3000 |
製剤改良により、さらにサラサラと流動性が良くなりました。薬液調製時も計量がしやすく、扱い易い銅剤です。幅広い病害に、銅イオンが優れた予防効果を発揮します。糸状菌(カビ)由来の病害だけでなく、細菌性(バクテリア)病害にも効果があります。有効成分の微粒子が、作物表面にムラなく均一に広がるため、散布液の痕が作物に残りにくくなりました。 |
これまでおすすめしてきた農薬は殺虫剤でしたが、「Zボルドー」や「コサイド3000」は殺菌剤です。無機銅剤は治療剤ではなく予防剤なので、べと病や軟腐病などの病気が発生する前に、こまめに散布しておく必要があります。万能タイプの殺菌剤なので常備しておくと便利です。
ただし、魚毒性があるので、使用回数無制限と言えども定期的な散布に抑えたいです。
おすすめ5 パイベニカVスプレー⇒アブラムシ多発時の対処療法
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
天然由来物質 (天然ピレトリン) |
天然殺虫成分(除虫菊を使用)ですばやく退治します。キャベツ、こまつなのアオムシ、なすのテントウムシダマシなど食害性の害虫にもよく効きます。 |
5つ目に是非持っておきたいのは、この「パイベニカVスプレー」。アブラムシを「エコピタ」や「粘着くん水和剤」の気門封鎖で抑えることが出来ればよいですが、異常発生した時は手の打ちようがなくなります。そこで、アブラムシの最後の手段として持っておきたいのが「パイベニカVスプレー」のような天然除虫菊乳剤です。
ただし、この「パイベニカVスプレー」は、使用できる野菜が制限されているうえに、使用回数も限られます。成分も天然ピレトリンとピレスロイド系となり、光などですみやかに分解されると言われていますが、使用は最低限に抑えたいですね。
おすすめ6 天然ミルベクチン(コロマイト乳剤など)⇒トマトのトマトザビダニ対策
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
天然由来物質 (ミルベクチン) |
有効成分であるミルベメクチンは微生物が生産する天然物なので、「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」において、化学合成農薬にはカウントされません。ハダニの卵、若虫、成虫のすべてのステージに高い効果があります。速効性に優れ、卵~成虫まで効果があります。 ※地方自治体が独自に定める農薬使用基準ではカウントされる場合がある。
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「コロマイト乳剤」などミルベクチンを使用したいと思える場面は、トマトにおいて梅雨時期以降、下葉から枯れあがっていくトマトサビダニが発生した時。トマトサビダニは後述の「サンクリスタル乳剤」も適用がありますが、特効薬としてはミルベクチンに軍配が上がると思います。
ただし、このミルベクチンも適用作物が限られるほか、使用回数にも制限があるため万能的な使用は出来ません。あくまでも限定的な使用となります。
おすすめ7 脂肪酸グリセリド(サンクリスタル乳剤など)⇒ダニとザビダニ対策
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
脂肪酸グリセリド | 野菜のうどんこ病、ハダニ類、コナジラミ類、アブラムシ類をまとめて防除します。薬剤耐性うどんこ病菌、薬剤抵抗性ハダニ類やアブラムシにも有効です。 | |||
野菜類やハーブのハダニ、アブラムシ、コナジラミ、うどんこ病の防除に効果的です。天然物(ヤシ油)由来の有効成分で、有機JAS規格(オーガニック栽培)で使用可能です。 |
使い方としては、粘着くん水和剤と同じく、アブラムシの気門封鎖系の薬剤に類似しますが、トマトのサビダニに適用があります。トマトサビダニの予防として、梅雨時期ごろから定期的に予防剤として散布する薬剤として注目できる薬剤です。欠点としては比較的高価な農薬であることがあげられます。
おすすめ8 カリグリーン⇒主にうどん粉病対策
乾燥していう時に、ウリ科やナス科の野菜に発生しやすいうどん粉病に使いやすく安全性が高いと言えば「カリグーン」。ただし、賛否両論はあるかもしれませんが、石灰質資材を葉に散布する石灰防除でも対応できるので、「カリグリーン」の存在感は薄れます。ただし、安全性重視なら「カリグリーン」は、持っておいても悪くない薬剤と言えそうです。
番外編(9) スピノエース⇒BT剤以外のアオムシ、ヨトウムシ対策として
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
天然由来物質 (スピノサド) |
スピノエース顆粒水和剤は、バージン諸島で発見された土壌放線菌(サッカロポリスポラ スピノサ)から生まれた、新しい殺虫剤です。従来の殺虫剤とは全く異なる作用機作を持つため、薬剤抵抗性の発達により既存薬剤では防除が困難なコナガをはじめアオムシなどに優れた防除効果を発揮します。安全面においても人畜や魚介類に対して優れた選択性を示します。また、環境への負荷が比較的少なく散布後は太陽光線や微生物の働きにより、多様な腐植成分、水、炭酸ガスなどに代謝されます。アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハイマダラノメイガにも高い効果を示します。 |
ちょっとこの薬剤は高価すぎて、とても家庭菜園では使いにくい薬剤ですが、BT剤とは違う作用と、鱗翅目以外の害虫にもスペクトルがあるという点でとても魅力ある殺虫剤です。
個人的には、もっと小さいボトルで家庭菜園用に販売してくれたら嬉しい薬剤です。
番外編(10) 展着剤としての「アビオンE」
分類 | 薬剤名 | 備考 | ||
天然由来物質 (展着剤) |
パラフィンを主成分とした展着剤です。パラフィンの特性と独自の乳化技術を活かし、安定した付着性と優れた耐雨性を有しています。適期防除が可能で、混用する農薬(殺菌剤や殺虫剤)の効果を十分に引き出す事が出来ます。 |
こちらは展着剤なので、殺虫・殺菌効果などはありませんが、農薬の効果を向上させる有機栽培でも使用できる展着剤の一つして天然由来物質の「アビオンE」の存在は大きいです。
ただし、この薬剤も、家庭菜園用に小さいボトルは販売されていません。前述の「スピノエース」と同様に、小さいボトルで販売してくれると嬉しい薬剤です。
以上、個人的に家庭菜園におすすめの農薬をご紹介しました。
いずれも有機栽培で使用できるので、比較的安全性が高い農薬がほとんどですが、やはり薬剤には間違いないので、使える対象作物や使用回数、希釈倍率など使い方を間違わないようにすることがとても大事です。
有機栽培でも使用できる農薬なら何でも良いと思って使っていけば、歯止めが効かなくなりますし、安全だと思って栽培した野菜が安全でなくなる可能性も出てきます。
やはり農薬は最小限の使用を考え、耕種的防除・物理防除も上手く組み合わせて使用したいですね。